大学の研究室運営は,中小(零細)企業の経営にたとえられることがある。
資金を獲得し,研究を行い,成果を発表し,次の研究につなげるというサイクルは,企業経営に似ているところがある。
小講座制(教授-助教授ー講師-助手という旧来の大学制度)がなくなった大学では,研究室にスタッフがいないから,みんな選手兼監督(playing manager)である。自ら発想し,自ら働いて,自ら売り込んでいかないといけない。
このような「町工場の社長」をモデルにしながら,研究活動を行ってきた。
しかし,最近になって違うことに気がついた。
以下のような中小企業についての本を読むと感銘をうける。自分も真似してみたくなる。
坂本 光司 (2008). 日本でいちばん大切にしたい会社 あさ出版
坂本 光司 (2010). 日本でいちばん大切にしたい会社2 あさ出版
坂本 光司 (2011). 日本でいちばん大切にしたい会社3 あさ出版
坂本 光司 (2010). 経営者の手帳 働く・生きるモノサシを変える100の言葉 あさ出版
しかし,やってみて,中小企業と大学の研究室には大きな違いがあることに気づいた。学生の存在である。
成功している中小企業には,社員の満足度が高く,長期間勤めているという特徴がある。同じメンバーで組織を持続させていくことに目標がある。
これに対して,学生は学部生なら2年,大学院に進学しても7年で,研究室を巣立っていく。メンバーの入れ替りが激しく,それぞれの人生設計も違っている。
組織の構造が違うので,中小企業の経営を研究室運営のモデルにするのは無理がある。
これに代わるモデルとして,NPO(非営利組織)が参考になりそうだ。NPOに古くから注目していたドラッカーはさすがである。
Peter F. Drucker (1990/2007). ドラッカー名著集 4 非営利組織の経営 ダイヤモンド社
このような思想に基づいて,しばらく前に研究室の「理念」を定め,ウェブサイトにも載せるようにした。
「心理学で社会に貢献する」Contribute to Society by Psychology
抽象的で難しい話ではない。
誰か具体的な他者(自分ではない)を喜ばせることを考えながら,心理学を学び,研究したい人が集まる場所にしたい。
ちょうど3年生の研究室決めのシーズンである。理念に賛同する人を募集している。