マーティン, R. (2003). 「頑張りすぎる人」が会社をダメにする(The responsibility virus) 日本経済新聞社
を読んだ。
周囲と対話することが大切だと主張している点では,それほど目新しさを感じなかったが,「責任量保存の法則」というアイデアは面白かった。
この法則には,
静的保存:ある場面において,一方が責任を多く持つと,他方が責任を持たなくなる。
動的保存:責任を過剰に持つ人は,そのうちすべてを投げ出して責任過少になる。
という2つのパターンがある。
「責任の所在についての認知は極端になりやすい」という指摘はもっともである。
困難な事態に飛び込んで行って,「よし俺がぜんぶ責任を持つ」と言うのはカッコいいが,実は時代遅れのリーダーシップスタイルなのだという。
これからのリーダーには,自分と他の人の両方に対して,それぞれの能力に見合った責任を分担させる役割が求められるらしい。
能力を超えた責任を果たそうとすると燃え尽きてしまうし,能力未満の責任しか与えられないと成長の機会を失ってしまう。
集団が全体として持続的に成長するためには,構成員の能力と責任をマッチングさせることが欠かせない。それをうまく行うには,対話が欠かせないという。
すばやく成果が求められる時代であるが,あわてて飛び込んで,相手の責任を一手に引き受けることは得策ではない。自分がしんどい思いをするだけでなく,相手の成長を妨げることになる。
いたずらに熱くならず,一歩引いて,大局的な目標が見えるようになりたい。
一方で,そういう責任分担調整能力のない上司に当たったら,悲劇だろうと思う。
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対話の重要性を指摘した点では,グラッサーの選択理論の方がよくまとまっている。
元はカウンセリング技法(リアリティセラピー)として発展した。
特徴としては,過去を重視する精神分析と違って未来志向的であり,個人内過程に注目する認知行動療法(論理療法)よりも対人関係を重視し,来談者中心療法よりも指示的な技法だといえる。
グラッサー, W. (2003). グラッサー博士の選択理論 アチーブメント出版
グラッサー, W. (2003). 15人が選んだ幸せの道―選択理論と現実療法の実際 アチーブメント出版
磯部 隆 (2010). よりよく生きるための心理学 9つの心理学と選択理論 静岡学術出版
グラッサー, W., & グラッサー, C. (2003). 結婚の謎(ミステリー) アチーブメント出版
グラッサー, W. (2001). あなたの子どもが学校生活で必ず成功する法 アチーブメント出版
グラッサー, W. (2003). ハッピーティーンエイジャー アチーブメント出版
心理学の理論を,カウンセリングに限定せず,学校や地域社会,結婚生活にも生かしていこうという姿勢には大いに共感する。
カウンセリング以外の心理学も,そういう実践をもっと目指していいと思う。