心理学と企業

昨日紹介した本には,興味深い統計が載っている(p. 39)。

菊地 俊郎 (2010). 院生・ポスドクのための研究人生サバイバルガイド 講談社ブルーバック

米国における企業等研究者の専門別構成比(2003年度)において,心理学は何と 9% に達するのだ。工学(31%),理学(26%),生物学・農学・ライフサイエンス(20%)に継ぐ第4位である。後には,社会学(5%),数学・統計学(4%),情報科学等(3%),保健(2%)が続く。日本では,人文・社会と合わせても1.1%にすぎない(2008年)。工学(76.9%)が圧倒的に多く,理学(15.8%)がそれに続いている。

他方,ポスドクの分野別構成でも,米国では心理学が 9% に達している。これは,生物学・農学・ライフサイエンス(57%),理学(10%)に継ぐ第3位だ。後には,工学(7%),社会科学(4%),数学・統計学(3%),保健(2%)が続く。日本の調査(2006年度)を見ると,意外にも人文・社会が 9.7% と健闘し,米国に引けをとらない。

この国際比較は何を意味するか。1つは,日本では心理学を学んだ人が企業で活躍する機会が少ないこと。もう1つは,心理学でポスドクはできるが企業には就職できないことである。

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私の研究室では,修士課程を終えて社会に出る人がほとんどである。研究室を運営する上では,博士課程の学生が多い方が何かと便利ではある。しかし,私から博士課程への進学を勧めることはしない(修士課程への進学は勧めている)。

これにはいくつか理由がある。第1に,現在の就職状況を考えれば,よほどの勝算がないかぎり,博士課程に進学するのはリスクが大きいからである。第2に,心理学の知識と方法論をしっかり学んだ人に(これは学部教育だけでは足りない),社会で活躍してほしいからである。第3に,運がよければ,働きながら社会人学生として博士課程に戻ってきてほしいからである。

上記の国際比較をみると,この方針は的外れでないといえる。

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心理学を学んだ人は,工学部出身者などに比べて,まだイメージがよくない。企業にとって何に使える人材か分からないからだろう。これを改善していくには,実際に就職して活躍する人を増やしていく以外に道はない。

みんながみんな研究者になれないし,ならなくてもいい。心理学を面白いと思い,しっかり勉強して,自分のやり方で社会に貢献してくれる人が増えることを期待している。

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