「かわいい」の研究

ブログの更新を1年以上していなかった。

27日の朝,PLoS ONEというオンラインジャーナル誌に「かわいいものを見ると注意の範囲が狭くなる」という論文が公開された。2日前に大学からプレスリリースを出してもらったので,マスコミの反応は早く,新聞やTVで広く取り上げられた。

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「かわいい」の研究というと,一般人のウケを狙った余芸(ネタ)のように感じる人もいるだろう。しかし,私は5年近く研究を続けていて,本気である。研究を始めたときから,このテーマは時限爆弾のようなもので,いつかは爆発的に広まるという確信があった。

研究を始めたきっかけについては,別のところで述べた。日本心理学会の情報誌「心理学ワールド」のインタビュー記事として近いうちに掲載される(ネットでも読めるはずだ)。

最初からずっと考えてきたことがある。

「かわいい」というのは日本で生まれた文化現象なのだから,日本の心理学者がもっと真剣に取り組んでもいいのではないか。

「甘え」という概念もそうだが,日本人が日本人の心性や文化を丁寧に扱うことで,日本発の心理学理論が生まれてもいい。グローバル化が進んでいる今だからこそ,私たちが伝統的になじんできた価値観を自覚し,世界に向けて表現することが求められている。

科学的な研究は,対象を正確に定義するところから始まる。「かわいい」についての心理学的研究が少なかったのは,「かわいい」という対象があいまいで,客観的に定義できなかったからだろう。しかし,「かわいい」を対象の性質ではなく,それに接する人が抱く感情としてとらえなおせば,科学的な研究テーマになる。コロンブスの卵のような発想の転換が,研究を進める上での大きな転機となった。

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論文は排泄物である。努力の末に生みだした自分の一部であるが,一度外に出したらそれでおしまい。次の仕事が待っている。自分の研究が注目されるのはうれしい。でも,論文は過去の自分である。今はその先にあるものを探している。

一つの研究ですべてが明らかになることはない。今回の知見とその解釈も,いつかは新しい研究によって修正・否定されるだろう。シビアだが,そうでないと嘘をつくことになる。

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ネット上では「かわいいは正義」というコメントが流れている。それに便乗していえば,「かわいいを研究するのも正義」だ。

「かわいい」を真面目に研究しようという心理学者が増えることを期待している。

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