9月23日から27日の5日間,第17回国際心理生理学会議(IOP2014)を開催した。
2年以上も前から続けてきた努力が,見事に結実した5日間だった。
国際会議を実施するのは,正直にいえば面倒である。
特に,この学会(国際心理生理学機構,IOP)にはお金がないから,開催国が自分の責任で予算を工面しなければならない。
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それにもかかわらず,この会議を日本で開催することを決めたのには,理由がある。
2011年3月,私たちは東日本大震災によって大きな被害を受けた。その傷はまだ癒えていない。しかし,被災地の人たちの真摯な姿に「よし私も」と魂をゆさぶられたし,世界各国から差しのべられた手の暖かさに感動を覚えた。
その恩返しがしたかった。私たちが力をあわせて新しい日本を作っている姿を,海外の人たちに見てほしかった。
震災から1年がたった2012年春。実現を懸念する周囲の声を押し切って,手持ち資金ゼロから準備を開始した。48名の組織委員の先生方には,手弁当での参加をお願いした。2012年7月,イタリア・ピサで開催された第16回国際心理生理学会議(IOP2012)で招致の説明を行い,満場一致で,広島での開催が決まった。
東アジアで初めて開催される心理生理学の国際会議に向けて,手作りの挑戦が始まった。
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今回の会議で最初から念頭においていたのは,「中心」となるスターを作らないことだった。
誰か大物を中心に据えて,その他多数が舞台裏で奉仕するという伝統的な学会スタイルは避けたかった。
関係するスタッフみんなが中心と感じられる会議にしたい。それは,開催を決めた初志でもある。新しい日本を作っているのは「私たち」だからだ。
そのため,名誉会長2名,大会長1名をたて,私は実行委員長として裏方に回った。
今だからいえるが,準備の過程は不安に満ちた苦しいものだった。
最初のうちは,ほとんどひとりで準備を進めた。他人に頼む前に,まずは自分がぎりぎりまで働くのが私の主義だから。しかし,それにも限界がきた。見かねた同僚が,実行副委員長を買って出てくれた。他機関の学友たちも,進んでサポートを申し出てくれた。彼らの尽力がなければ,開催まで心身が持たなかっただろう。
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今回の会議では,「顧客の満足」と「従業員の満足」を両立させたかった。
参加者(顧客)の満足が高かったのは,言うまでもない。自画自賛になるが,私がこれまでに参加した国際学会のなかで,最もホスピタリィにあふれた会議だったと思う。
海外参加者から寄せられた声を少し引用する。
The science was excellent and the organization impeccable. It was a revelation to see how much good science is done in Japan and how enthusiastic young Japanese researchers are. (オランダ)
The congress was great, it was a great pleasure to be one of the speakers. I also enjoyed very much the Japan hospitality.(トルコ)
Congratulations on the wonderful and well-organized congress. All of us will remember it as one of the best ever.(ハンガリー)
It was a great pleasure to attend the 17th World Congress of Psychophysiology and to enjoy brilliant lectures and stimulating discussions, especially during poster sessions. It was my first visit in your country and I have been deeply moved by unusual Japanese hospitality, kindness and gentleness.(ポーランド)
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これに加えて,今回とくに気を配ったのは「従業員(スタッフ)」の満足だった。
学会は,主催する大学の学生スタッフで運営することが多い。しかし,それでは「中心」ができてしまう。今回は,日本各地の大学院生に声をかけて20名を公募した。現地の20名の学生スタッフとあわせて40名が,5日間フルで任務に当たってくれた。
低予算の会議であり,結果として完全なボランティアになってしまったのは,心残りである。
それにもかかわらず,企画者の意図を汲んで,和気あいあいと笑顔で作業を進めてくれた学生スタッフのみなさんに,心から感謝したい。
I particularly admired the huge number of volunteers who worked so diligently and cheerfully for a smooth operation.(オーストラリア)
みなさんが新しい日本を作る人たちです。
「奇跡の5日間」が終わり,それぞれが次の課題に向けて歩みはじめている。