心理生理学は,機械を使ってヒトの反応を測定する。
だから,考えを直接たずねる質問紙調査よりも,離れたところから冷静に人間を見る印象があるかもしれない。
でも,参加者に直接触れて測定するのだから,質問紙調査よりも「人間に接近した」研究方法なんだよ,と授業で話すことがある。
それを実験で示した研究が発表された。
Van Lange, P. A., Finkenauer, C., Popma, A., & van Vugt, M. (2011). Electrodes as social glue: Measuring heart rate promotes giving in the trust game. International Journal of Psychophysiology, 80, 246-250. doi:10.1016/j.ijpsycho.2011.03.007
信頼(信託)ゲームは,対人信頼の強さを調べるのによく用いられる。
このゲームは2人がペアになって行う。ルールを説明されたあとに,一人の参加者が信託者(trustor)となる。そして,自分の所持金から,相手(被信託者 trustee)にいくら渡すかを決める。実験者は,その金額を3倍にして被信託者に渡す。次に,被信託者は,受け取った金額と自分の所持金から,信託者にいくら払い戻すかを決める。
信託者が最初にいくら渡すか,被信託者がいくら払い戻すかが,相手に対する信頼の指標になる。
今回の実験では,はじめて会った2人の女性ペアが,信託者と被信託者にくじ引きで分かれた。最初の所持金として,どちらも6ユーロずつ渡した。
全部で25組のうち,15組が心電図を測定する条件,10組が測定しない条件に無作為に割り当てられた。心電図条件では,実験者が参加者の胸部に6つの電極を装着した。
結果は,次のようなものであった。
信託者の役割になった人が最初に相手に渡す金額は,電極を装着されたとき(平均5.27ユーロ)の方が,されなかったとき(平均3.50ユーロ)よりも多かった。
また,非信託者の役割になった人が払い戻す金額も,電極を装着されたとき(平均9.47ユーロ)の方が,されなかったとき(平均5.00ユーロ)よりも多かった。ただし,この差は,最初に受け取る金額の影響を統計的に取り除いたら有意ではなくなった。
あってもおかしくない結果である。このような効果が起こるメカニズムは複数考えられるので,なぜそうなるかについての結論は出ていない。それでも,現象そのものが示唆に富んでいる。
心理生理学は,やはり「人間に接近した」方法であり,測定することで心理状態が変わってしまうこともあるのだ。
最近こういった小粋なアイデアに基づく研究が増えている。自分もやってみたいと思う。