今年は予想とは違うことがよく起こる。
イギリスのEU離脱選挙の結果しかり,日本シリーズ終盤でのカープの失速しかり。
アメリカ大統領戦でトランプ氏勝利を予想した人は少なかった。予想しても,発言しにくいという事情があったのかもしれない。
2012年の大統領選挙では,ビッグデータを使った当選予測が話題になった。ネイト・シルバー氏が独自のシステムで,オバマ氏の勝利だけでなく,50州すべての投票結果を言い当てた。
ネイト・シルバー (2012). シグナル&ノイズ-天才データアナリストの「予測学」 日経BP社
今回はどうだったかというと,シルバー氏自身はヒラリー氏が勝利する確率は71.4%と予測していたようだ(http://projects.fivethirtyeight.com/2016-election-forecast)。
そのかわり,インドで開発された人工知能システムである MoglA がトランプ氏勝利を予測していたという(CNBC 投票前の記事)。さまざまなインターネットサイトから候補者への言及の数(内容ではない)を分析することで,予測を行うシステムのようである。投票前の解説記事では,それが弱点のような書き方をされていた(WEDGE Infinity)。
だが,現実になった。
世界は,私たちが信じたいと思う立派なメカニズムではなく,ずっと単純な仕組みによって変化しているのかもしれない。決定論的に「決まる」のではなく,単に「変わる」のだ。
「信じたいと思う事柄」は私たちの一部であるから,それがくずされると心身にダメージを受ける。
ヴィクトール・フランクルが,『夜と霧』のなかで,こんな逸話を書いていた。クリスマスシーズンに強制収容所から解放されて家に帰れると信じていた人々は,クリスマスを過ぎても変化が起こらないと分かると,徐々に弱っていき,年が明ける前に亡くなることが多かったと。
精神衛生の点からは,具体的なことは何も期待しないのが一番いいのかもしれない。それよりも,起こっていることをあるがままに受け入れる訓練をするのが役立つかもしれない。
私たちは「人間は何かを期待するから行動できる」と考えているが,実は,意識的な期待と行動は関係ないのかもしれない。余計な期待を持たずに,淡々と課題をこなした方がうまくいくこともある。
将来の予測という点で,今後,人工知能はヒトに勝るようになるだろう。人工知能がすべての将来を予測できるとはかぎらない。でも,人工知能にできないなら,ヒトにもやはりできないはずだ。スピードの点でヒトは人工知能にかなわないからだ。
クリストファー・スタイナー (2013). アルゴリズムが世界を支配する 角川書店
コンピュータの方が予測が得意になったら,ヒトは予測をコンピュータに任せるようになるだろう。現在もその傾向がある。自分で空を見上げてこれからの天気を予想するより,何も考えずにスマホの天気アプリで予報を見ることが増えてきた。
「予測しない」「考えない」というのは知的活動を放棄しているようだが,この傾向は,これからの人間が開発すべき新しい能力を示唆しているのかもしれない。
コンピュータにできないこと,そして,人間であっても誰かに肩代わりしてもらえないことは,「起こった出来事を深く解釈すること」である。なぜそうなったのか? その出来事にはどういう意味があるのか? 正解の基準がない中で,自分で納得できるかどうか?
これからの私たちに求められるのは,将来を正確に予測する能力ではなく,もっと柔軟な力--現在起こっている出来事から意味のあるストーリーをつむぎだす力,そしてそれを周囲に伝える力--なのかもしれない。
特定の候補を応援していたわけではないが,意外な結果を聞いて,どっと疲れが出た。
不思議だったので,その仕組みを自分で解釈してみた。