何よりも命名が上手なことに感心した。
よい名前をつけて,アナロジーがびしっと決まると,古いアイデアも新鮮に聞こえる。
ダニエル・ピンク (2010). モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか 講談社
原題は「Drive!」。同じ著者の前の本もよかった。
ダニエル・ピンク (2006). ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代 三笠書房
「人は何によって行動するか」は心理学のテーマである。教養教育の心理学では,条件づけや学習理論をよく教えている。理屈が通っていて教えやすいからだ。しかし,人間は動物とは違うことも一緒に教えないと,生きていく上で害になるかもしれない。
この本の冒頭では,ハーロー,マズロー,デシ,チクセントミハイなどの考えが紹介されている。フェスティンガーへの言及がないのは意外だ。報酬の有無によって課題に対する評価が(学習理論の予想とは反対の方向に)変わることは,認知的不協和理論で説明できる。フェスティンガーについては次の本が面白い(この本も評価が分かれる本だ)。
ローレン・スレイター (2005). 心は実験できるか―20世紀心理学実験物語 紀伊國屋書店
さて,ダニエル・ピンクによると,人を動かすための基本ソフト(operating system: OS)には3つあり,徐々にバージョンアップしてきたという。
モチベーション1.0は,生存を目的として行動するOS。飢えや渇き,性動機など,生物学的動機に基づく。
モチベーション2.0は,報酬・罰という外発的動機づけによって行動するOS。お金やよい生活のために働く。
モチベーション3.0は,内発的動機づけによって行動するOS。自律性(autonomy)・熟達(mastery)・目的(purpose)が鍵になる。
ルーチンワークが中心であった時代に有効だったモチベーション2.0は,創造性を必要とする現代の職場では機能しなくなった。持続するやる気を引き出し,活気のある職場や社会を実現するには,モチベーション3.0に移行しなければならないとダニエル・ピンクは主張する。
なるほどと思えるのは,OSのバージョンアップというアナロジーがうまいからだ。
モチベーション2.0がうまくいかなくなっているのは何となく感じるから,そろそろバージョンアップが必要かなと思わせてくれる。
でも,モチベーション2.0がうまくいかないなら,バージョンダウンしてもいいのでは?
そう考えていて思い当たったのが,何年か前に流行った渡辺淳一の「失楽園」(Wikipedia)である。
それまでの生活のすべてを捨てて性愛だけに走るのは,モチベーション1.0へとダウングレードした例といえる。
Amazonの書評をみると,評判になって売れた本のわりには評価が低く,読者の共感を得られていない。
主人公の2人が,モチベーション3.0へとアップグレードしていたら,どんな結末が待っていただろうか。