BCI(Brain-Computer Interface)の研究が盛んになり,脳波が話題にのぼることが増えた。7-8年前には fMRI の発展によって「時代おくれの技術」と言われたこともあったが,このところ工学応用で復活してきた。予想したとおりの展開である。
脳波を使った玩具が日本でも市販されることは1-2年前から話題になっていたが,実際に購入して試してみた。
マインドフレックスは,脳波でボールを動かすというおもちゃである。
ニューロスカイ社のヘッドセットを使っている。伸縮性のあるバンドを頭にはめる。バッテリー(単4電池3本)とアンプが入った箱が左右についているから少し重い。額(中心から1センチほど左より)に電極(φ8ミリ)が1つあり,クリップ式の電極(φ1センチ)を左右の耳たぶにはさむ。電極の素材は分からない(スズかもしれない)。表面にわずかに凹凸をつけて接触しやすくしているが,皮膚に当たって痛いことはない。耳につける電極のどちらかがグランド電極で,どちらかが基準電極なのだろう。本体とは無線(2.4 GHz)で通信している。電極が外れると,本体から警告音声がでるので,電極インピーダンスのチェックもしているらしい。
脳波センサーがある状態を感知すると,本体のファンが回ってスポンジボールが空中に浮き上がるという仕組みになっている。実際にやってみると,確かにボールが浮き上がる。でも,自分で動かしている感じはしない。意識状態に対応して何かしら変化しているような気もするが,思いのままには操れない。「集中力の強さ」によって動くと説明書には書いてあるが,「集中力」が何をさしているのか分からない。
同じバイオフィードバックでも,アルファ波を制御するなら,眼をつぶってボンヤリすることを目標にできる。だが,この装置はどの脳波成分を対象にしているのか分からないので,機械の反応を気にしながら,自分で自分をチューニングしなければならない。かなり疲れる。まばたきしたり,眉をひそめたりしても,変化がないようなので,眼電位や筋電位ではなく,やはり脳波の周波数帯を対象にしているようだ。
練習すれば,もっとうまく出来るようになるかもしれないが,早々にあきらめてしまった。やっていて思ったのは,具体的な目標なしに,自分の心理状態を一定に保つのは難しいということ。脳はふつう,目標を持った活動に随伴して自動的に動いている。脳そのものを操作対象とするのは不自然である。
この遊びに必要なのは,一次元の情報(ファンが回る強さ)だけだ。それなら,次のような方法を使えば,ユーザーはもっと楽になるはずだ。(1)具体的に実行できる心的活動の選択肢(たとえば,手を握るイメージをするとか,眼球を動かさないようにするとか)をユーザーにいくつか提示する,(2)そのときの脳波状態を計測する,(3)安静時(デフォルト時)の脳波ともっとも違いが大きい(弁別しやすい)脳波を生じさせた心的活動を個人ごとに選ぶ,(4)ユーザーにその選択肢を提示し,それを目標として行動制御させる。BCIを遊び以上の技術にするには,ユーザーが何をしたらいいかを具体的に示し,自己制御感を高める工夫がいるだろう。
ニューロスカイ社の技術を使った製品は東芝も発売している。これからは日本でも市場が拡大していくのだろうか。
もう少し本格的な民生用脳波センサーに,Emotiv社の製品がある。14チャネル(こちらはドライ電極ではなく,生理食塩水で装着するらしい)で,個人ごとにキャリブレーションする(10秒足らずで終わる)。デモがTEDで配信されており,一見の価値がある。
ただ,このEmotiv社の製品が日本人の頭でもうまく動作するかは微妙である。デモに映っているような薄毛の白人であれば電極がつけやすいだろうが,直毛がふさふさした人には難しいのではないか(参考:日本人の髪の特徴)。
脳波センサーを使った技術が今後どれだけ普及していくかに興味がある。一つ心配なのは,こういった発展途上のおもちゃを試した人が,「やっぱり脳波は使えないね」というネガティブな印象を持ってしまわないかである。