論理学者,数学者,物理学者,技術者,心理学者

金出武雄先生(カーネギーメロン大学)の

を読んだ。この本の前版,

は以前からの愛読書だ(ブログ)。人にも勧めていたが,しばらく絶版になっていた。

新しいあとがきがついて,再版された。いま読んでも面白く,刺激を受ける。

この本のなかで,各分野の研究者の違いについて「論理学者,数学者,物理学者,技術者」というジョークを紹介している。もとは,ジョージ・ポリアの『帰納と類比 Induction and analogy in mathematics』(1954)に書かれている(原著 p. 11)。原文を私が訳したものを載せる。

論理学者「数学者をみてごらん。最初の 99個の数が 100よりも小さいことを観察して,彼が帰納とよんでいる方法で,すべての数は 100より小さいと推論するんだ。」

数学者「物理学者は60がどんな数でも割り切れると思っている。60が 1, 2, 3, 4, 5, 6で割り切れることを観察して,それから 10,20,30という,彼によればランダムに選んだ他のいくつかの例を調べる。60はそういった数でも割り切れるから,実験的証拠は十分だというんだ。」

物理学者「でも技術者をみてごらんよ。すべての奇数は素数じゃないかっていうんだ。1は明らかに素数だ。次に,3, 5, 7とみんな間違いなく素数だ。そこに 9がくる。困ったことに,素数でないようにみえる。でも,11と13は確かに素数だ。そこで 9に戻って,技術者は 9は実験誤差に違いないというんだ。」

実験心理学者は誰に近いか? たぶん技術者に近い。もっと言うと,こんな感じだ。

技術者「でも実験心理学者をみてごらんよ。すべての奇数は素数だという仮説を立てた最初の心理学者が 1と3を調べて,仮説が支持されたという論文を書く。別の心理学者が 5と7を調べて,やはり仮説が支持されたという論文を書く。2つの論文を読んで興味をもった心理学者が 9で試してみると,仮説が支持されない。データは発表できず,お蔵入りになる。しばらくして,4番目の心理学者が 11と13を調べて,やはり仮説が支持されたと述べる。そして,すべての奇数は素数だという“事実”が教科書に載るんだ。」

ポリアは,帰納という方法が知的に劣った方法だと主張しているのではない。むしろ,欠陥が多いにもかかわらず,帰納が数学的な発見においても役に立ったケースに注目している。

心理学の“理論”と呼ばれるものは,もしかするとより大きな法則の一部かもしれない。同じことは,複雑ネットワークの話を読んだときにも感じた。

マーク・ブキャナン (2003/2005) 複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線 草思社

「実験心理学(認知神経科学も含む)は何を明らかにできるのか/できないのか」について,このようなアナロジーで考えてみるのは面白い。

専門分野に入り込むと,どうしても自分のふだんの思考枠組みが正しいように思えてくる。しかし,真実はまったく違うところにあるかもしれない。

タイトルとURLをコピーしました