ナショナル・ストーリー・プロジェクト

アメリカの作家ポール・オースターの小説が好きで,柴田元幸さんによる訳が出るたびに読んでいる。

この本は,原著が2001年刊,訳本が2005年刊だが,ようやく読むことができた。オースターがラジオ番組の企画で,作り話のように聞こえる本当の話を投稿するようにリスナーに呼びかけた。集まった4千のなかから179の物語が収録されている。

テーマも内容も形式もばらばらだが,共通しているのは,書いた人が何かを伝えたかったということ。書こうと思った気持ちが素直に理解できる話もあれば,なぜ投稿したのか分からない話もある。

不思議な話がたくさん載っている。たとえば,偶然の一致。なくした自分の所有物に何十年も経ってから再会するとか,共通の知り合いをもつ人に予想外の場所で出会うとか。偶然の一致が起こる理由はさまざまだろうが,偶然の一致に対する人々の反応にはある種の共通したパターンがあるように思える。

実験心理学をやっていると,何でも懐疑的にみる習慣がつく。起こったことを既存の枠組みで説明しようとする。この習性は職業的な強みなのだが,自分に理解できる程度の枠組みでは,人間の行動や心理のごく表面を引っ掻いているだけのような気もする。

全部を知りたいとは思わないが,せめて,どの部分を引っ掻いているかが分かるようになりたい。

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